
ゴキブリもそうだけど、ハエってあんまりいいところがない。卵から成虫に至るまで、すべてがキモイ。ま、好きな人はあんまりいないと思うけど、やはり相手を知らなければ対応できないよね。不潔の王様、ハエは生まれて死ぬまでどんな一生を過ごすのか、
卵から成虫に至る4つのポイントに分けそれぞれ見てみよう。
ハエの一生はどんなサイクル?
日本には60の科、約3000種類のハエがいる。生態は微妙に違い、僕らの生活に与える影響も様々な分野に及ぶ。ハエは衛生害虫・農業害虫・不快害虫の3つのありがたくない害虫区分のタイトルをすべて獲得している虫です。
ハエの生態サイクルは蚊と同じように卵-幼虫-蛹-成虫という完全変態(かんぜんへんたい)です。それぞれの成育期間は図のような区分が一般的ですね。
モデルにしているのはイエバエ科・ニクバエ科・クロバエ科(よくキンバエとか言われるハエもこの仲間)など、よく見かけるハエの一生で見ていきます。
下図のライフサイクルは代表的なものです。

第1段階 卵

ハエは多くが卵生で半透明の約1mmの乳白色の細い楕円形をしている。卵を産む場所はそこに栄養になるものがあればどこにでも産み付けます。土の中、腐った野菜や果物、死肉やヒトを含めた動物の糞便。孵化した時に生きて行くための栄養がある湿り気があればハエの種類によっては水の中でもOK。卵の段階から厄介ですが、産み付けるパターンには2つあります。

一つはイエバエの類で幼虫(蛆=ウジ)のエサとなる腐乱物(例えば果物や野菜、動物の死体)に長い卵管を挿し込んで産卵します。

もう一つのパターンはニクバエの仲間で、こっちは卵を産み付けるのではなく、メスは自分の中で卵を孵化させ栄養源となる肉や糞便の中に幼虫を移します。いきなり蛆が生まれるような感じですね。卵は体の中にあるんです。これが厄介で、特にヒトの体の傷口に寄生させるとハエ蛆症(蠅(よう)蛆症(そしょう))という病気を引き起こしたりする。環境次第では日本でも寝たきりの高齢者の床ずれ(褥瘡=じょくそう)に寄生することがあり、それは生きながら食べられている状態で相当ショッキングな状況です。
いずれにしても不潔なところに卵がある。イエバエや小より小型ですが、ショウジョウバエのようなハエは積極的にヒトの住居に侵入するので台所やごみ箱の中にも見つけることができる。乾燥と清掃が予防のポイントですね。

黄色ショウジョウバエ(3mm)
第2段階 幼虫(蛆=うじ)

うじと呼ばれる呼称はイメージ通りだけど、昔は「たくさん集まる」ことを「うずすまる」という言い方をしたんだって。その『うず』が訛って『うじ』になったという説がある。まあ、印象として『うじゃうじゃ』という表現と重なるね。
蝶やガの幼虫のように足はない。見ての通り、外見にほとんど付属物がない。こいつが体をうねらせて意外と早く這ってゆく。(「うじうじする」という態度表現を文字通り体現しているね。)
10mmほどの幼虫である。『ウジ虫』という呼称は非常に不名誉な別称として使われるよね。写真でとがってる方が頭。こっちが進行方向。
でも、後部の気門を開き、そこを水面に出すと水の中でも呼吸ができる。今では少なくなった水洗じゃない田舎のトイレの便と尿の中でも生きて行ける。腐乱しきった腐敗物も液状に分解されてくるからその中でも立派に生きて行く。…もう、かんべんしてほしい生命力がある。
幼虫(蛆=うじ)の形は蜂の子によく似ているけれど、蜂の子は一匹ずつ部屋に入っていて這い回らないから不潔との印象はない。蜂の子は日本でも煎ったり、佃煮にしたりしてタンパク源として食べる風習があるけれど、ハエの子って美味しくないそうです。(学者さんは凄いなあ、食ってみたんだね。)
幼虫(蛆=うじ)は衛生害虫、不快害虫で何の役にも立たないかというとそうでもない。
ニクバエの仲間の幼虫は衛生的な状況で培養され、着色されて「サシ」という名前で釣りの生エサとして重宝される。また、イタリアのサルディーニャ地方で作られるカース・マルツゥというチーズは発酵させ、蛆をわかせて作られる。(食ってみたいとは思わないけれど、珍味って言うの?こんなの)
ニクバエの幼虫が腐肉に寄生するという話を紹介したけれど、この習性を利用し、無菌の幼虫(蛆=うじ)を使ってヒトの潰瘍や末期の糖尿病の症状である四肢の壊疽(=えそ)の外科的治療に使用するマゴットセラピーと呼ばれる外科治療も存在する。
役にも立ってるんだね。印象薄いけど。
幼虫(蛆=うじ)は脱皮せずにその体がそのまま縮んでゆき、外皮が固くなり蛹に変化する(囲蛹=いよう)という特殊な二重構造の変態を遂げます。幼虫(蛆=うじ)は4~10日で蛹になります。
第3段階 蛹(=さなぎ)

蛹(さなぎ)の時代は幼虫の不潔極まりない場所から少しまともな乾いた場所に移動しています。ハエの蛹の特徴は脱皮を繰り返して大きくなるのではなく、幼虫(蛆=うじ)の体表が硬化し、米粒のような形に縮んでゆきその形が変化してゆきます。
そして、蛹は成熟するに従い薄い茶色から濃く褐色に変化します。それにつれ、内部が成虫の形に次第に変形して行き、幼虫だった頃の頭部の体の節が変化した部分が環状に開いてそこから羽化します。この時代だけだよね。目立った悪さしないのは。だけど見た目が悪いので不快害虫のレッテルは外れないよ。
蛹(さなぎ)の駆除委方法としては、蛹それ自体は動かないから潰して捨てるか、掃除機で吸い込んでしまうくらいだね。でも蛹があるということは羽化して成虫や卵、幼虫がいる可能性があるわけだから要は幼虫が生活できるような不潔で湿って腐ったものを人が生活環境からどれだけ排除するかにかかっているよ。ずぼらはいけないね。
蛹は4日~11日で成虫になります。
第4段階 成虫(羽化)-交尾-産卵

種類によってことなるけれど、一般的によく見られるイエバエの場合、蛹(さなぎ)から羽化して4、5日経つと産卵を始める。生態サイクル自体が短いからハエってずっと汚物のある場所にいるような印象を持つよね。
だけど、ハエのメスもオスも普段生きて行くためのエネルギーは花の蜜や花粉、熟した果物の果汁やアブラムシの排泄物である蜜汁を摂取して補給する。(「アブラムシ」はアリマキの別称で蟻と共生する。アリマキはお尻から分泌する蜜を蟻に与え、その代り、アリマキをテントウムシの幼虫から守る。)
ハエの成虫が汚物にかかわっているのは卵が孵化した時の幼虫の餌床になるからだけじゃない。産卵のためにはメスの卵巣やオスの精巣を成熟させる必要がある。
そのために不可欠となるタンパク源を人や家畜の体液(涙、唾液、傷口から出る浸出液など)や動物の死体、腐った果物などの腐食物を摂取する必要があるのです。
ハエが花や植物の葉っぱに留まっている不釣り合い写真。決して間違ってはいないのです。

しかし、そのタンパク資源が持つ不衛生な状態は深く接触するハエに宿り、そこからハエは直接・間接に様々な病原菌や寄生虫を振りまくのです。
これら成虫のハエが媒介する病原菌の数たるや、すさまじいものがあるね。
ちょっと名前だけでも挙げてみると、ポリオウィルス、サルモネラ、コレラ、赤痢アメーバに赤痢菌、回虫の卵、鞭虫(べんちゅう=鞭虫感染症を起こす。寄生虫の一種)が挙がってくる。近年は病原性大腸菌O-157や鳥インフルエンザウィルスといった厄介なものも媒介するとの研究結果も出ている。
直接媒介ではアフリカでは有名なツエツエバエの媒介するトリパノソーマ(原生生物でいろんな宿主に寄生する。アフリカで流行が蔓延している眠り病が有名)が国単位の深刻な問題になっているよね。

クロバエ
さらに、クロバエ科やニクバエ科の肉食性のハエの幼虫は人の体に直接寄生し、蠅蛆症(ようそしょう=ハエ蛆症)を起こすものもある。特に創傷蠅蛆症は日本でも見かける。高度の要介護の高齢者が寝たきりになり、体位変換を行わずに放置されると、体重がかかるお尻なんかに褥瘡(じょくそう)という血行不良による床ずれができる。
お年寄りは栄養が不足すると傷に対しても回復力が衰え、患部が腐敗してくる。ひどいものは骨が見える。ボクはそこに蛆がわいているのを写真で見たことがある。
ネットで検索すればそんな画像がいくらでも出てくるけど、見て楽しいものでは断じてない。
でも、いい面もある。植物の腐った匂いや、オスの匂いに反応する厄介なショウジョウバエという小型のハエ科の一部は無菌培養され、様々な生命科学の実験に多くの貢献をしている。(贖罪的だね。)

黄色ショウジョウバエ
ハエは成虫として1か月から2か月の命だけれど、その間に交尾を繰り返し、5回から10回もの産卵を繰り返す。イエバエは一度に50個から150個の卵を産む。クロバエ科のキンバエなんかは200個から500個の卵を産んじゃう。孵化したらまさしく『蛆が湧く』っていう表現がぴったりだね。
ハエの一生 まとめ

- ハエは卵-幼虫-蛹(さなぎ)-成虫の感染変態をする。
- 卵は短くて半日、長くて3日ほどで孵化し幼虫(蛆=うじ)になる。
- 幼虫(蛆=うじ)は脱皮を繰り返し、蛹(さなぎ)になるのではなく幼虫(蛆=うじ)自
- 体の体が縮んで表皮が固くなり4日から長くて10日で蛹に変身する。
- 成虫は4日から11日くらいで幼虫の頭部の体節が変化した蛹(さなぎ)の頭の部分を開けて羽化する。
ハエは成虫だけが病原菌や寄生虫を媒介する衛生害虫なのではなく、幼虫の段階でも様々な農作物の被害や人体、家畜等の健康にも被害を及ぼす。そして、それらが混然となり、彼らへの不快害虫としてのレッテルは今では僕らの頭に深く刷り込まれている。
でも、人としての目線から離れ、人類として自然の中の生き物として俯瞰すると、彼らに与えられた生命の終わりへのかかわり方にも目をやることができるように思います。
必要として自然が産んだ害虫というものを同じ自然の中の一動物であるヒトが根絶させることが可能かどうか、そんな自己矛盾が成立するか。ハエとの長い歴史が物語っているように思えてならない。
…とか考えてみるものの、ブーンという羽音を聞くと「ええい!五月蠅い(うるさい)」とぼやきながら殺虫スプレーに手を伸ばすのです。
お疲れ様。読んでくれてありがとう。