
ハエとはハエ目 ハエ亜目 ハエ下目 に属する昆虫の総称です。
種類が多いのも特徴で日本では約3000種ものハエが確認されています。
その中で衛生害虫として扱われるのは、ほんの一部です。
数も多く分類も進んでいない種ですが、それでも衛生害虫として人との関わりの深い種は、結構研究が進んでいるようです。
ゴキブリ・蚊と共に嫌われ者昆虫として名高いハエですが、どれほどの種類のハエが、どのような理由で人間と関わっているかなどを、検証していきたいと思います
ハエの種類
人間の生活圏で、衛生害虫として扱われる代表的な種を以下紹介します。
イエバエ類
イエバエ

世界各地に分布し名の由来の通り人家に侵入します。体長は4~9mm弱で胸部に4本の黒条線を有し腹部は黄褐色をしています。糖質を好み集まりますが鮮魚や肉などにも集ります。イエバエで問題視されるのが腸管出血性大腸菌O-157を媒介することです。人体に入り込み寄生しハエ症を発症させるなどの被害も有ります。
オオイエバエ
イエバエより大きく1cm程度で体色は灰褐色に黒褐色の斑紋を有します。腹部は黒条線を有しますがイエバエよりは不明瞭です。小楯板が赤褐色を帯びるのが特徴で豚舎や鶏舎に多く発生します。
ヒメイエバエ
世界各地に分布し体長は5~7mm程度でイエバエと体色は似ますが体型が細く見えます。オオイエバエと似て豚舎や鶏舎に多く発生します。
室内外共に雄だけで旋回する行動をします。これを輪舞と呼びます。通常ハエ類の幼虫は蛆虫でいわゆる蛆状の形をしていますが、ヒメイエバエの幼虫は褐色に棘状突起を全身にまとっています。蛹も同様の形態です。
ニクバエ類
センチニクバエ

種類:センチニクバエ・ナミニクバエ・ゲンロクニクバエなど
ニクバエのほとんどの種には胸部背面に明瞭な黒条縦縞がありイエバエ類と見た目が似ています。ニクバエ類は大型種が多く、羽音も大きく室内に侵入されると存在感があります。
クロバエ類やキンバエ類のように腐乱した死肉を好む傾向がありますが、腐敗した食べ物や糞のみならず、新鮮な肉までも食べます。
通常ハエ類は卵を産み落としますが、ニクバエは卵から孵ったウジを直接食べ物に産み付ける卵胎生が特徴です。
クロバエ類
オオクロバエ

種類:ヒメクロバエ・オオクロバエ・ミヤマクロバエなど
クロバエはそのほとんどが大型で体色は黒褐色をしています。幼虫は腐敗動物質や糞便などの汚物や動物の死体や厨芥など様々な物から発生します。晩秋や初春に多く発生し細菌類の媒介者として衛生上重要視されます。
生きている虫体は濃青銅色に見えます。
キンバエ類
ミヤマキンバエ

種類:キンバエ・ミドリキンバエ・クロキンバエ・ミヤマキンバエなど
衛生害虫にあたるキンバエは多種に渡り動物の死体など腐乱した物に誘引され産卵します。一般的に金属光沢をもつものが多く緑や青みがかった体表をしています。
畜舎や精肉所、ごみ処理施設、一般家屋へも飛翔侵入し病原菌を媒介します。サルモネラ菌、ポリオウィルス、赤痢アメーバなど多種に渡るウィルスを伝搬する衛生上極めて重要な種類です。
「サシ」として釣りの餌として販売されている幼虫はキンバエ類の幼虫です。
ショウジョウバエ類
キイロショウジョウバエ

種類:キイロショウジョウバエ・オナジショウジョウバエなど
コバエ類の代表種であるショウジョウバエ類は体長が5mm以下のもの、体色が黄褐色のもの、複眼が赤いものが多く室内に侵入するため衛生上重要な害虫です。
日本全国に分布しショウジョウバエ類が誘引されるのは果汁や乳製品、酒、醤油、味噌などです。銀杏や植物などが腐朽した物にも強く誘引されます。
ノミバエ類
オオキモンノミバエ

種類:オオキモンノミバエ・コシアキノミバエ・クサビノミバエなど
ノミバエ類の最大の特徴は吸血害虫のノミと同様に後脚の腿節が太く羽で飛び回るより徘徊することが多いことです。体長は2~3mm程度で黄褐色に褐色のものが多くいます。
一般家庭では生ごみに誘引され侵入されることが多く、排水管や汚水槽のスカムを求め侵入されると大発生します。
チョウバエ類
オオチョウバエ

種類:オオチョウバエ・ホシチョウバエなど
系統的にはハエよりもユスリカやカなどに近い昆虫です。
多くの種は幼虫が湿地や池沼などの水際で育ち、目立たない生活を送っていますが、限られた一部の種は人家の浴室や台所の排水周り、下水管などに生息し、時に大発生することがあります。そのため不快害虫として問題になります。
トイレに多く発生することから俗称で「便所バエ」などとも呼ばれることもあります。
日本の家庭では、体長 4 mm 程度の灰黒色で大きな翅がハート型に見えるオオチョウバエと、体長 1 mm 程度で翅を屋根型に畳むホシチョウバエの 2 種がこうした人家生息種です。
ハエの生態

ハエの成虫の多くはエネルギー源として花の蜜や果物などから糖分を摂取しますが、卵巣や精巣の成熟のための蛋白源として種によってさまざまな食物を摂取します。
蛋白源となる食物は人や家畜の涙・唾液・傷口からの浸出液といった体液、死肉・動物の糞・腐敗植物質といった動植物の死骸などです。
衛生害虫としてのハエの害はこのハエの摂食習性に起因します。
まず、動植物の死骸から好んでタンパク質を摂取するハエの場合、人間の食物と糞便などの汚物の双方で摂食を行う場合があり、このときに病原性のある細菌、ウィルス、寄生虫卵などを媒介することとなります。
ヒトの居住空間に進出しているハエの一部には、イエバエのように積極的に人家に侵入する性質を持ったものがあり、こうしたハエは特に食物の病原体による汚ハエは主に傷んだ食品、腐敗した動物の死骸、動物の糞尿などを餌にしています。
そもそもハエは分泌する消化液によって餌を溶かしてから、口吻で舐める事により栄養を摂取しています。
つまり傷んだ食品や動物の死骸はハエが消化するまでもなく腐敗しており、ある程度餌として食べやすくなっていて効率が良いのです。
また糞尿から揮発する硫黄化合物等の特定の臭気はハエの特に好む香りです。
以上の理由でハエは衛生害虫として不動の地位を得ています。
ハエが媒介する菌類
ハエ類は自身に菌類を保有しているわけではありません。
ハエが栄養源として取り込む物から付着した菌類を我々が口にする食べ物などに伝搬します。
ハエが媒介する病原菌は60種類以上あると言われています。大腸菌をはじめ黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、ポリオウィルス、有名なのはO-157です。
過去には、コレラ菌による大災厄の原因であったとも言われています。
ウジは益虫
腐食性のハエの幼虫は、動植物の分解者として生態系において重要な役割を担っています。
ウジ虫というと、生物の遺骸に湧いたり不潔な場所に湧いたりするイメージが強いことから、とても嫌われている虫の一つでしょう。
ですが益虫としての側面もあることをご存じでしょうか。たとえば傷治療においてウジ虫は有効に活用できたりします。昔は戦時中に傷の手当てが不十分で傷口にウジがわくことがありました。
これは悪いことのように思われがちですが、じつは傷口の細菌や膿を食べてくれているのでむしろ傷の状態が良くなるのです。
ウジというのは生きている組織を食べることがなく、さらに殺菌効果のある分泌液を出しながら腐敗細胞や壊死細胞のみを食べてくれるからです。
ハエの一生
ハエの寿命というのは種類と環境によって違いが出るので一概には言えることではないのですが、平均的に見た場合寿命は1カ月半くらいが一般的です。
ハエというのは胚期、幼虫期、蛹期、成虫期という4つの形態が存在する完全変態昆虫です。
寿命というのは卵として産まれてから、成虫として力尽きるまでの期間とします。
ハエの代表的な存在であるショウジョウバエを例にとるとそれぞれの期間は以下のようになります。
- 胚期:約1日
- 幼虫期:約4日
- 蛹期:約5日
- 成虫期:約30日
ハエはなぜ手を擦るの?
ハエを観察しますと、しきりに手足を擦っています。
非常に気持ちが悪いですが、ハエにとっては重要な行動なのです。
実はハエの手足は味覚を感じ取る感覚器官の様な働きをしています。しかし糞尿などが感覚器官に付着していると感度が鈍ります。
そのため敏感に感覚を研ぎ澄ますために、手を擦って付着物を落としているのですね。
またハエの手足からは粘着物質が分泌されており、そのおかげで窓や天井にピッタリ止まれるのです。
手足に付着物がありますと上手に止まれませんから、手を擦る事で付着物を落としています
バカなハエ程長生きする
ハエの寿命について調べていたら面白い情報がありました。
なんでもスイスの行った研究によると、知能が高いハエと低いハエを比較したところ、知能が高いハエは低いハエよりも15%ほど寿命が短くなっているそうです。
知能の維持にはかなりエネルギーを浪費するので、それが生存力の低下につながっているのではと推測されています。
まとめ
ハエは人類の歴史の上でも数々の病気を媒体して、伝染病の原因となってきました。
最近の研究では、これまで関係がないとされていた、ピロリ菌の媒介も行っているらしいと言われます。
けれども、幼虫であるウジは死骸の分解者として、自然界では欠かせない存在です。
今後は、ハエを一方的な害虫と決めつけるのではなく、人と住み分けて共存する事が大事ではないかと感じました。
その為に、めんどうくさいごみの分別や早期回収などを徹底して行うことが、ハエ被害を抑える重要項目であることを改めて感じられたよう思います。