カマキリが共食いするのはナゼ!? 幼虫同士でも共食いする?

いきなりショッキングな場面ですみませぬ。

喰ってるのがメス、喰われてるのがオスなんですね。

学校から帰ってくると、母親の「おかえり」の「り」の声を聞かないうちにもう、裏山への階段を駆け上がっていた子供時代には写真のようなカマキリの共食いはメスの産卵のシーズンに何度か目にした光景です。

そういえば、雑食性の昆虫はたくさんいますが、純粋な肉食性の攻撃本能の塊のような昆虫ってあんまりいませんね。

強い顎を持ったスズメバチのようにお尻の針で麻痺させてから動けなくなった獲物をおもむろに咀嚼するってやつらは結構いるけど、カマキリのように生きながら相手の頭からモリモリ喰っちゃう虫っていないよね。

ゴキブリの天敵、幽霊のように気配を殺して近づき、一気にとらえるのが得意なゲジゲジって気味悪い昆虫も喰うんじゃなくて、体液を吸うってやつだし、まあ、それはそれで気味悪いんだけど、カマキリみたいに「肉が好きっ!」て吹っ切れた攻撃性は持ってない。

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なんで頭から喰うかって?

昆虫ってのは左右3対合わせて6本の脚が前、中、後と3つに分かれる胸部から1対ずつ生えているよね。

最初の大きな鎌のある前脚は頭部とともに前胸部に生えてる。そこが機能中枢であり、攻撃中枢なんだからだろうね。だから頭部から喰う。

中、後胸部は翅の下に隠れていて柔らかいけれど、喰ってるうちに反撃されるかもしれない。他の獲物なら逃げられちゃうからだろうね。

どうよ?この後戻りしない攻めに特化した無駄のないフォルム

 

 

でも、なんで共食いするんだろ?

カマキリの卵は見たことある?

カマキリの共食いはその産卵に関係があるよ。

10月頃木の枝や枯れかけたススキの茎なんかにお腹の大きなメスのカマキリが逆さに留まってお尻から白い粘液を出し、全身を使ってこね回して泡立てメレンゲ状態にする。

じっと観察してたら藪蚊に何か所も食われて両足がぼこぼこになった思い出がある。それほど長い時間かかる作業だ。

これを卵嚢(らんのう)っていうんだけど、この中に150個から200個くらいの卵を産み付ける。やがて卵嚢は固まって断熱効果の極めて高い頑丈な防水耐寒の殻になる。

指で引きはがして裂こうと思っても子供の力ではあまりに頑丈であるそれを裂くことはできない。弾力があり、鳥の鋭いくちばしからも中の卵を守ることができる。

これだよ。見たことあるでしょ。

メスのカマキリはこれを相当なエネルギーを使って作るらしい。

だからメスのカマキリはオスのカマキリと交尾した後、素早くオスを捕まえて自分の体力維持のために喰ってしまうんだね。中には交尾中にもう喰い始める凄いお姉さんもいるらしい。

ただし、オスのカマキリにしたって目を閉じて両手を組んで「どうぞ」っていうわけにはいかない。交尾はオスのカマキリがメスの機嫌を伺いながら、そーっと背後から忍び寄り、メスのすきを狙って命がけで接触する。

オスの方は多分フェロモンでメスに誘われているとは気づかないんだろうね。悲しいねえ男って…この敢えて虎の尾を踏みに行くオスの気持ちってどんなだろうね。何て言うか間合いの詰まった武芸者の居合みたいな張り詰めた空気がある。

大体昆虫界ではオスはメスより派手な色をしているか体が小さい。クモと同じようにカマキリの世界でも普通オスはメスより小さい。

肝っ玉母さんの前でちゃぶ台をひっくり返せるような根性とパワーのあるお父さんはいない。そんな力関係の中で生きるか死ぬかの営みになる。

うまくメスから離れられるためにオスは交尾が終わった瞬間に脱兎の勢いで逃げる。うまくゆけば生きながらえて次の年も子孫を残す機会が生まれかもしれない。

でも、メスだってこれから体力をつけとかなきゃ命を繋いでゆく営みが危うくなる。2,3回は産卵することができるんだから、産卵の大仕事で体が弱ったら今度は自分がエサになるとも限らない。必死だろうね。

この緊張感がこの動画からひしひしと伝わってくる。

https://www.youtube.com/watch?v=xC–vbzSGhU

逃げ遅れればまず助からない。ナレーションが入っているのでその辺がとてもわかるね。

つまり、カマキリの共食いはオスが栄養源としてメスに捕食される種の保存の摂理に従った結果なんだね。男としてはちょっと寂しくなるけどねえ。

 

 

幼虫同志でも共食いする?

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じゃあ、卵から生まれた赤ちゃん同士ではどうなんだろう?

昔生まれたばかりのカマキリの赤ちゃんをプラスティックの計量コップに入れてしばらく飼ってたことがあった。20匹から30匹は捕まえていたんだけど、5日ほどほっといたら4,5匹に減っていたことがある。明らか幼虫同士の共食いだね。

でもこれは大人のカマキリが共食いするのとは全く違う。暖かくなって卵嚢から出てきたカマキリの幼体にまだはっきりしたカマキリとしての独特の姿はない。大きさはまだ10ミリ程度。

200匹に近い幼虫が糸を引きながら卵嚢の外にうじゃうじゃと孵化する姿は最近観た映画を思い出させた。シン・ゴジラのラストシーン。ゴジラ第5形態が第4形態の尻尾から外に出てくる途中で冷凍化されたあの印象的なシーンです。

ほら、似てるでしょ?

その柔らかで弱々しく白っぽい幼虫はまだ体が柔らかく足も固まらず、ヨタヨタしてるので、見つかり次第アリやクモの格好の餌食になってしまう。

幼くしてニッチ(食物連鎖)に組み入れられるのです。生き残った個体にはそこから這いあがってカマキリ本来のニッチの頂点への道が始まります。

この動画はこれはこれで鳥肌だね。でも、この時期が一番エサになりやすい時期だね。仲間にも他の捕食性の虫たちにとってもね。

https://www.youtube.com/watch?v=6n4-4C8E_e0

やがて時間が経過し、身体がしっかりして、足元が固まってくると、それぞれが意外と俊敏に動けるようになり、一斉に四方八方に散ってゆきます。

一斉に散らばってゆくことによって外敵に襲われる危険性が確率的に減少するんだろうね。これは自己保存本能ではなく、DNAに組み入れられた種の保存本能といえる。

そして幼体はある時は自分よりは小さい仲間をある時は他の昆虫をその小さい鎌で仕留め、生きながらむしゃむしゃと頬張り、栄養をとり、力を溜め、脱皮を繰り返し、次第に大人のカマキリの形に近づいてゆく。

その最後の脱皮では薄羽を広げ大人のカマキリとして羽ばたくことができるようになる。これを羽化って言うんだけど、そこまでたどり着くのに5回から10回くらいの脱皮を繰り返す。カマキリにとっては繰り返す脱皮には大変なエネルギーを消費する。そのためには腹が減っていては先に進めない。そこで自己保存本能から同じ場所にいる者同士共食いが始まる。

やむにやまれぬ闘争です。

生き残った個体は共食いの機会が少なかった個体よりも大きく育ち、よりたくさん繁殖の機会を得ます。それはその先にある種の保存にも繋がってゆくってわけです。

ただし、研究のために一つの場所に集めた幼虫に同じレベルの発育を促すために他のエサを平等に与えることにすればこの闘争は起こらない。共食いの必要性はないからだ。

 

 

共食い自体はどんな生き物にもある?

この自己保存本能は雑食性ならどの生き物にも見られるよ。

極めて限定的ですが、人間だって例外じゃない。

未開の地の人食い人種とか精神病症状としてのカニバリズムじゃなくてね。普通の人間でもね。

「アンデスの聖餐」って聞いたことがある?

1972年10月13日にウルグアイからチリに向かった旅客機が事故に遭いアンデスの雪山に不時着した事件です。遭難した乗客は生き残るために死体を食べて生還しました。この実話をもとに製作された映画の題名です。

人間でも極限では生き物としての保存本能が理性や宗教を超越するんです。日本でも1944年5月に、同じような事件が北海道目梨郡羅臼町で起こりました。

日本陸軍の徴用船が冬の嵐で難破し、真冬の知床岬で極限状態に置かれた船の船長が部下の船員の遺体を食べて生き延びた事件です。日本の刑法では食人について処罰する規定がなく、当時の裁判所で死体損壊事件としてとりあげられました。

10年後、この事件は武田泰淳の短編小説「ひかりごけ」のモチーフとなり、舞台劇や映画にもなっています。

てなわけで、共食いってヒトのレベルまで来ると気持ちが重たくなるけど、大まかに言って、カマキリっていう昆虫のレベルではオスとメスのカマキリの共食いは種の保存、幼虫同士の共食いは自己保存って言えるんじゃないかな。

どっちにしても、生きるって厳しいね。

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