
蜂による刺傷被害がテレビのニュースに流れたり、特集が組まれたりし始めるのは7月頃が多い。その時期から10月から11月の晩秋にかけて毎年20人ほどが蜂による刺傷事故によって命を落とす。
おそらく、今年もその事故数が大幅に減少することはないだろう。また、死亡事故とならなかったものを含めると刺傷事故自体の数は相当数に上るに違いない。
そして、毎年起こる蜂による刺傷事故のほとんどがスズメバチという大型の蜂によって引き起こされている。
それらの事故は都市型のキイロスズメバチ、刺傷能力が最も強いオオスズメバチによるものがほとんどだ。刺傷事故の時期からスズメバチは、夏から晩秋にかけて発生するものと考える人も多いだろう。
しかし、多くのスズメバチは4月下旬から5月にかけて越冬を終えた、たった一匹の女王蜂から始まるんです。
スズメバチの種の生態を知ろう!

写真のキイロスズメバチの巣は作り始めてから3日くらいたっている。すでに卵が見える。
女王蜂の寿命は通常1年ほど、働き蜂はわずか2か月ほどの寿命でしかない。「ちょっと待て、オスは?オスはどうなってんの?」えー、あんまりこれといった活動があるわけではないんだけど、その辺も含めてスズメバチの生態、見ていきましょうか。
Part1:スズメバチの社会性
スズメバチは基本肉食であり、育児のために狩りをするいわゆる狩りバチの進化形態とされている。同じ科のアシナガバチとともに社会性を持つ。
その社会性はミツバチとともに翅(はね)をもつハチの仲間では最も進化したタイプといわれている。
スズメバチの巣は育室(いくしつ=6角形に壁で仕切られた養育室)に卵から蛹(さなぎ)までの様々な段階の子供を同時進行で育てる。中には数万といわれる育室を持つものもある。
女王蜂を持つ蜂の仲間に共通しているのは、未受精卵がすべてオスになり、受精卵はすべてメスになるという性質。
そして、女王蜂が精嚢から精子を取り出して受精させたものだけがメスになる。つまり、女王のみがオス・メスの選択権を持っているということ。
アシナガバチと違ってオス蜂は一切働かない。まるでひものような生活ですね。
働き蜂はすべてメスだけれど、女王蜂が生きている間は、全く産卵を行わない。だから女王蜂が受精卵を残さない状態で早々といなくなると働き蜂がオスを産んでも女王の育てることはできず、やがてその巣は全滅する。
専門的になるけれど、不思議な生態としてアシナガバチには「働き蜂の女王殺し」ということがおこる。その研究結果を理解するうえで女王蜂と働き蜂の生態の理解は重要だ。
Part2:女王蜂の生態を知ろう
スズメバチの女王蜂は前年の秋の終わりごろ(10から11月頃羽化し、たった一匹で越冬します。その年の働き蜂は2か月間の命がすでに終わり、死んでしまっていないし、オス蜂に至っては交尾したら死んじゃってますからね。
女王蜂越冬場所は空き巣を離れ、雑木林に点在する倒木や苔むした切り株など腐って柔らかい朽ち木の内部。
強靭な顎で木を削り、楕円形の越冬室を作り、削り取った木くずで進入路に蓋をし、越冬する。温度変化を嫌い日の当たらない場所を選ぶようです。
越冬の途中で寄生虫やカビにやられて、目覚めない個体もあるけれど、翌年の春(4月の終わりから5月頃)までの約半年間、体内に蓄積した脂肪を消費しながら冬眠する。当然目覚めた時はもう、腹ペコだわね。
先ずやることは体力回復。これから一人で巣作りから産卵、餌の捕獲と大忙しになるからね。このころ、樹液を吸う女王蜂の姿がよく写真に撮られるね。また花の蜜だけでなく、アブラムシの排泄物(甘露と呼ばれ、アリと共生し、身を守るアリマキの甘い蜜汁だね。)を舐めて体力回復を図ったりもする。計量が終わった後のボクサーって感じだ。これからの労働のための体力回復には2~4週間かかる。

そして、体力面で『もう大丈夫』ってなってからおもむろに彼女は本格的な営巣のための場所を物色する。前の古巣をもう一度使う何てことは普通ない。
最初の巣を作りながら女王蜂は一一匹で帝國の再建に取り掛かる。
「いつまで?」って、そりゃあなた、役に立つ最初の働き蜂が羽化するまででしょ。
女王蜂は巣を作りながら卵を産んでゆく。最初の卵が孵ると幼虫のための餌の捕獲も単独で行う。初めての働き蜂が羽化するまではすべての作業を単独で行う。役に立たないオスなんて後回し。
この時期はスズメバチにとって油断ならない時期でもある。卵や幼虫を残したまま、女王蜂は狩りに出かけるため、巣が無防備な状態となり、防御のために戦い傷ついて死んでしまえば、すべての努力は無に帰する。
一刻も早く働き蜂を羽化させなければならない。また、働き蜂が羽化し始めても、しばらくの間女王蜂は巣を大きくするために働き蜂とともに産卵、営巣、育児、狩猟とせっせと汗を流す。働く。主婦の鏡だ。庶民派だねえ…
Part3:働き蜂の生態はどんなふう?
働き蜂は女王蜂よりやや小柄な場合が多い。彼女たちは7月頃から羽化を始め、その数は次第に増えて行き、9月から10月にかけて集団の個体数は最大となる。
オオスズメバチを例にとれば働き蜂の数は数百匹となり、餌を集める狩猟にも、卵や幼虫の世話にも巣の拡張についても数の上で充足してくるだけでなく、巣の危機に対して、損耗を恐れぬ戦闘態勢も整う。
スズメバチの刺傷事故が多発する最も危険なシーズンの到来ですな。

働き蜂の数が最大に近づくころ、働き蜂は次世代女王候補の育成を始める。
この時期に何らかの理由(例えば駆除)で働き蜂が下激減すると、次世代女王蜂候補は毛子音のために巣分かれするまでは働かないという身分を捨て、働き蜂として他の働き蜂とともに働き始める。やがて生まれるオス蜂は女王蜂として蓄えた脂肪を労働で消費し、フェロモンを失った彼女とは交尾しようとしなくなる。これは女王という身分を投げ打つんだね。
それに引き換えオス蜂はどうしたの?何やってんだよ!
Part4:オス蜂の根性なし的生態
オス蜂は次世代女王候補より少し早く、9月から1月にかけて生まれてくる。オス蜂は女王蜂の選択によって未受精卵として生まれる。まあ、はっきり言って昔の大店(おおだな)のバカ息子みたいな身分だね。与太郎だ。(同じオスとして、書いていてすごく自虐的になってきた…)とにかく全く働かねえ。ただ、子孫を残すためだけに生まれて、用が済めば死んじゃう。
繁殖期になって次世代女王蜂候補が巣分かれするとき、オス蜂も交尾のために一斉にその後を追けれど、そのほとんどがあぶれるか外敵(オニヤンマ、オオカマキリ、ハチクマのような猛禽類)に喰われてしまう。反撃ってあなた、オスの蜂には卵管が変化した針がないんだから、殴られっぱなしだよ。
交尾に成功しても、寿命が尽きるし、失敗しても生き長らえる意味がない。(いかん。ますます自虐的になってくるね。)
Part5:輪廻
次世代女王蜂が巣立つ前に元の女王蜂はすべての役割を終え、女王蜂としての機能をすべて使い果たして死ぬ。
まだ寿命が来ていない働き蜂も自己保存本能よりも優先する種の保存が果たされた結果越冬することなく一生を終える。
越冬するのは、次の年の春女王蜂として立つ次世代女王蜂候補だけ。ただ一匹で営巣巣を始める新たな春に向かってひたすら眠るんですね。
スズメバチの種の生態のまとめ
Part1からPart4まで見てきた内容を簡単に図式してみよう。
まず、女王蜂からオス蜂、働き蜂の大まかなスケール。(オオスズメバチ)


スズメバチ-個の生態を知ろう!
社会性のあるスズメバチには以上のように種としてめぐる生態があるだけでなくもう一つ、個のスズメバチとしての卵から成虫迄のサイクルがあることも忘れちゃいけないね。こっちも簡単に見ていこうか。
Step1: 六角形の育房(いくぼう)の中に女王蜂はい個ずつ卵を産み付ける。

Step2: 5日ほど経過して卵からかえった幼虫は12日ほどの間働き蜂が運んでくる餌を食べて成長するが、この時の餌の種類によって女王蜂と働き蜂の差が生じるという。
幼虫は12日の間に4回脱皮し、第1令虫(れいちゅう)から第5令虫の5段階のプロセスを経て蛹(さなぎ)になる。

第1令虫

第3令虫

第5令虫

第5令虫が糸を吐き、蓋をした育房
Step3: 第五令虫段階で幼虫が成熟すると蚕(かいこ)のように口から糸を吐き、育房に白っぽい蓋をしてしまう。
幼虫はその蓋によって密閉された中で蛹となり徐々に、乳白色の透明感がある体が、
成虫の色に変わってゆき15日ほどで羽化し、蓋を食い破って外に出る。

さなぎ2体と第5令虫

生まれたてのスズメバチ
スズメバチ-個の生態のまとめ
個体としてのスズメバチは見ての通り、種類によって多少の違いはあるにしても卵として産み落とされて、5日で幼虫となり、12日かけて蛹へと変化し、15日ほどで羽化して成虫となる。
およそ1か月で完全変態を遂げる。幼虫が成熟してゆく過程は5段階に分かれ、最終段階では蚕が繭(まゆ)を作るように糸を吐いて六角形の育房に蓋を作り、眉の生活に入る。
幼虫も繭もすべて巣の外側を向き、薄い膜の中から、育房の外の大人の世界を感じているのかもしれないね。
スズメバチ-生態全体のまとめ
社会性の高い昆虫であるスズメバチには、種を保存してゆくための女王蜂、オス蜂、働き蜂のそれぞれの役割がある。
それを支える個々のスズメバチには昆虫としての卵-幼虫-さなぎ-成虫という完全変態を遂げつつ、その過程は変わらないのに、羽化した時はすでに社会性に位置付けられた種の役割をそれぞれが担っている。生まれながらの地位です。
これはミツバチや同じハチ目でありながら翅のない蟻の仲間にも言えることだね。
社会性に位置付けられた種としてのスズメバチはまず、新たに女王蜂として越冬したスズメバチが4月からただ一匹で営巣、産卵、オスが体内に残した精嚢から精子を取り出してメスの働き蜂を増やしてゆく。それを養うための獲物を狩る。働き蜂が一人前になるまでは、誰も女王蜂を助けてはくれない。
彼女はやっと一息つけるのは生まれてきた働き蜂とともに必死で働き、巣を大きくし、ようやく労働力が整って来た頃です。
そのころにはもう、女王蜂としての能力が衰え始め、彼女は次世代のためにオス蜂の卵を産み、次の女王蜂の候補の卵を産むんですね。
社会性という言葉は人の社会がもつ特質を反映した人間である我々の造語ですよね。
母親とたくさんの子供と、甲斐性なしの親父の織り成す物語のようですね。